
- 有償PoCとは、実証実験の費用を導入候補先に負担してもらい相手の社内で正式な検討事項にする形態です。
- 無償PoCと違い費用を承認する稟議を通すため、承認済み案件として本導入の検討へつながります。
- 横浜市は「TECH-PoC」で設立5年未満のテック系スタートアップの実証を助成し、特許庁はPoC契約のモデル契約書を公開しています。
有償PoCとは、実証実験の費用を導入候補先に負担してもらう形態のことです。PoCとは、Proof of Conceptの略で、新しい技術や構想が実際に機能するかを確かめる概念実証を指します。無償の実証を重ねても、事業化に進めないことがあります。本記事では、有償PoCの必要性と無償から抜け出せない理由、移行の壁と実証依頼書の使い方を順に解説します。
1. 有償PoCはなぜ必要なのか?

有償PoCにする理由は、費用を承認する手続きを通すことで、実証が相手の社内で正式な検討事項になるからです。無償の実証だけでは、相手が費用を払う判断をする場面が生まれません。
研究開発型の企業は技術の実証に成功しても、次の導入先が決まらないまま時間が過ぎるケースがあります。自治体も実証の段階を支援しています。横浜市は「TECH-PoC」で、設立5年未満のテック系スタートアップの実証実験に、経費の助成と伴走支援を行っています。
出典: 【TECH-PoC】令和8年度の採択計画が決定しました|横浜市
実証実験とは、技術の性能や効果を確認する目的で行う検証行為全般を指します。実証実験の詳しい定義や進め方は実証実験とはで解説していますので、あわせてご確認ください。
有償PoCは実証実験の一種ですが、費用負担という条件が付く点が異なります。実証後に導入先を開拓する流れについては、実証後の導入先開拓で手順を整理しています。
2. なぜ無償PoCから抜け出せないのか?

無償のPoCが続く原因は、相手の担当者が上司に費用を通す材料を持っていないことです。有償化を打診する前に、案件がこの段階で止まっているかを確かめます。
PoC疲れとは、無償の実証を繰り返しても本導入や事業化に進めない状態を指します。実証のたびに技術の確認だけで終わる場合は、次の実証を引き受ける前に費用負担の打診を条件として示します。
国の研究開発補助を受けている場合は、補助事業の実証が終わる時期を区切りにして、有償化を打診する先を選びます。SBIR採択企業など国の研究開発補助を受けた企業の支援内容は研究開発補助の採択企業の方へで紹介しています。
3. 有償PoCへ移行する壁はどこにあるのか?
有償PoCへの移行を阻む壁は3つあります。提案先の規模不足、説明の材料の不足、決裁者まで話が届かないことです。壁の性質を見誤ると、同じ提案を繰り返すだけで前進しません。
3-1. 第1の壁|対象の規模不足は選定で減らせる
第1の壁は、提案先の組織規模が小さく予算権限を持たないことです。この壁は対象の選定段階で減らせます。
営業先の条件を先に定義し、予算規模や意思決定の階層を確認してからアプローチします。そうすれば、第1の壁に当たる頻度を減らせます。サービスについてでは、販売先の条件や順序を決める進め方を解説しています。
3-2. 第2・第3の壁|1回の接触では越えられない理由
第2の壁は、2章で見た説明の材料の不足です。第3の壁は、決裁者まで話が届かないことです。初回の面談では担当者はまだ技術を理解する段階にあります。そのため1回の接触では越えられません。
担当者が前向きでも社内で説明できなければ、有償の話は決裁者まで届きません。そこで第2の壁は2回目の提案で材料を渡して越え、第3の壁はその材料を書面にして担当者から決裁者へ回してもらうことで越えます。書面の作り方は5章で扱います。問い合わせや初回の関心が商談に進まない課題については、問い合わせの商談化で詳しく扱っています。
4. 無償PoCと有償PoCはどう違うのか?

無償PoCと有償PoCの違いは、社内稟議の有無と事業化への接続のしかたにあります。費用負担の有無は、導入意欲を推し量る手がかりになります。
次の表は、両者の違いを4つの観点で整理したものです。
| 比較項目 | 無償PoC | 有償PoC |
|---|---|---|
| 相手の本気度 | 費用負担が無く判断材料なし | 費用を払う判断の有無で確認可能 |
| 社内稟議 | 費用承認の稟議なしでの開始 | 費用を承認する稟議の通過 |
| 事業化への接続 | 実証終了とともに検討停止の懸念 | 承認済み案件として本導入の検討へ接続 |
| 担当者の説明責任 | 上司への説明はほぼ不要 | 費用の根拠と期待効果の上司への説明 |
デメリットは、相手が稟議を通す必要があり、検討を始めるハードルが上がることです。
5. 実証依頼書はどう使えば導入先につながるのか?

本記事では、実証の目的・費用・期間を明文化し、担当者が社内説明に使える書面を実証依頼書と呼びます。この書面を提案側が用意すると、有償化の停滞を起こしにくくなります。
私たちは担当者がそのまま上司に見せられる実証依頼書を、提案する側で用意することを勧めます。担当者任せで資料作成を待つと、検討が止まったまま時間が過ぎてしまいます。
実証依頼書には次の項目を具体的に記載します。
- 実証の目的
- 想定する効果
- 費用の根拠
- 実施期間
- 契約で取り決める条件(成果物と知的財産の扱い・本導入へ移る条件)
費用は実証にかかる工数と範囲から根拠を示して決めます。作業の項目ごとに人数と日数を積み上げ、実証の範囲を広げた場合と絞った場合の2案を示すと、担当者が予算に合わせて選べます。価格を決めるときは、積み上げた額が相手の稟議で説明できる範囲かどうかも確かめます。
評価の基準は、本導入へ移る条件と同じ物差しで決めます。精度や作業時間など相手の現場で測れる指標を少数に絞り、実証の前の値と比べられるようにします。期間は、その指標を測るのに必要な長さで区切り、延長する場合の条件も書いておきます。
契約形態は、準委任契約と請負契約のどちらにするかを先に決めます。準委任契約とは、成果物の完成ではなく作業の遂行に対して対価を払う契約です。請負契約は成果物の完成を約束する契約のため、結果が読めない実証では準委任契約を選ぶ場合があります。
契約では、次の3点を実証の開始前に書面で決めます。成果物は、報告書やデータなど何をいつ渡すかを明記します。知的財産は、実証中に生まれた成果がどちらに帰属するかを定めます。本導入へ移る条件は、達成したら本契約の検討に進む数値や基準を合意しておきます。条文を一から作る必要はありません。特許庁は、スタートアップと事業会社の間で結ぶ技術検証(PoC)契約のモデル契約書と、その逐条解説を公開しています。
出典: OIモデル契約書 技術検証(PoC)契約書(新素材編)|特許庁
2回目の提案時にこの書面を提示し、担当者が社内稟議にそのまま転用できる形にすることが有効です。大学発ベンチャーや共同研究先を持つ企業がこうした資料を整える手順は、大学発ベンチャーの方へで紹介しています。
よくある質問
Q. 有償PoCと無償PoCはどちらから始めるべきですか?
A. 初回の面談では費用を求めずに技術への理解を得て、2回目の提案で有償PoCを提示する流れが現実的です。いきなり有償を求めると検討の機会自体を失うことがあります。
Q. 実証依頼書は誰が作成すべきですか?
A. 提案する側が作成することを勧めます。書面が手元にあれば、担当者は資料作りではなく上司への説明そのものに時間を使えます。
Q. SBIR採択企業が有償PoCに進めない理由は何ですか?
A. 実証段階の評価と、その後の商談化は別の課題であるためです。実証で技術力を示せても、導入先の社内決裁プロセスを越える準備が別途必要です。
Q. 大学発ベンチャーが導入先を増やすにはどうすればよいですか?
A. 販売先の条件を先に定義し、対象の規模や決裁権限を確認してからアプローチすることが有効です。対象選定の精度が導入先開拓の成否を左右します。
Q. マーケティング・営業責任者がいない場合はどう対応すべきですか?
A. 経営者が営業を兼ねる体制では、戦略立案と実行を同時に進める社外の営業・マーケティング部門を活用する方法があります。役割を分けることで、代表が技術開発に割く時間を確保できます。
まとめ
- 有償PoCは費用負担を通じて相手の本気度を推し量りやすいため、まず進行中の無償の実証のうち有償化を打診できる先を選び出します。
- 販売先の条件として予算規模と意思決定の階層を先に定義し、第1の壁に当たる提案先を減らします。
- 前向きな担当者には2回目の提案の場を設け、上司への説明に使える実証依頼書を提案側で用意します。
- 実証依頼書には工数から積み上げた費用の根拠と、成果物・知的財産・本導入へ移る条件を書き込んでから提示します。









