
- ディープテックとは何か、定義と従来技術との違い
- ディープテックの主要分野と事業化の特徴
- 実証後の導入先開拓とマーケティングの進め方
ディープテックとは、特定の自然科学分野の研究で得た科学的発見に基づき、社会課題の解決に大きな潜在力を持つ技術を指します。研究開発補助の採択を受け実証を終えた経営者にとって、次の課題は最初の導入先づくりです。本記事では定義から事業化の壁、導入先開拓の手順までを一気通貫で解説します。
1. ディープテックとは何か、定義と従来技術との違い

ディープテックとは、科学的発見を基盤とし社会実装によって大きなインパクトを生む技術領域のことです。従来のITスタートアップが扱う技術とは生まれ方も事業化の難易度も異なります。
1-1. ディープテックの定義と語源

ディープテックという語は、Propel(x)共同創業者兼CEOのSwati Chaturvedi氏による造語として紹介されることがあります。英語の「深い技術」という意味のとおり、表面的な改良ではなく科学や工学の深い知見に根ざした技術を指す言葉です。
経済産業省も独自の定義を示しています。同省はディープテックを「特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術」としています。そのうえで「事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術」と位置づけています。
この定義は、技術そのものの新しさだけでなく、社会実装による課題解決力を重視している点が特徴です。
BCGとHello Tomorrowは、ディープテックの要件として次の5点を示しています。
- 現在使われている技術よりも斬新で著しく進化していること
- 実用化のために多大な研究開発を要すること
- 大きな社会課題・環境課題の解決に資すること
- 技術的な優位性が模倣されにくいこと
- 事業化までに長い時間と多額の資金を要すること
これら5点は、技術の新規性と事業化の難易度を同時に満たすという、ディープテックの二面性を表しています。
1-2. Deep Techというジャンルの位置づけ
Deep Techとはどういうジャンルですか、という疑問への答えは明確です。Deep Techは、ITやソフトウェアの改良ではなく、自然科学の研究成果を起点とする技術ジャンルを指します。バイオ、素材、量子、宇宙など複数の学問分野にまたがり、単一の業界カテゴリーには収まりません。
研究室や大学の実験から生まれた技術をもとに起業する点が、ディープテックというジャンルの共通点です。大学発ベンチャーや国の研究開発補助の採択企業の多くが、このジャンルに該当します。
1-3. 浅いテック(従来のITスタートアップ)との比較
従来のITスタートアップとディープテックは、開発期間・資金・事業化までの不確実性で大きく異なります。両者を比較すると違いが明確になります。
| 比較項目 | 従来のITスタートアップ | ディープテック |
|---|---|---|
| 技術の起点 | 既存技術の組み合わせ | 自然科学の研究成果 |
| 開発期間 | 比較的短い | 長期 |
| 必要資金 | 比較的少額 | 多額かつ長期 |
| 事業化の不確実性 | 低い〜中程度 | 高い |
| 模倣のされやすさ | 比較的容易 | 困難 |
この違いを踏まえると、ディープテックでは資金調達の計画と事業化パートナーの選定を、早い段階から長い時間軸で考えておく必要があります。
2. ディープテックの主要分野と事業化の特徴

ディープテックは単一の技術ではなく、複数の分野にまたがる総称です。日本国内でも大学発ベンチャーを中心に、多様な分野で事業化が進んでいます。
2-1. 注目される主要分野の分類一覧
ディープテックの例は、という質問に対しては、バイオテクノロジー・新素材・量子技術・次世代コンピューティング・宇宙関連技術などが代表例として挙げられます。分類の仕方は論者によって異なりますが、主な分野は次の通りです。
- バイオテクノロジー(医療・農業・食品分野への応用)
- 新素材(軽量化・高機能化素材の開発)
- 量子技術(量子コンピューティング・量子通信)
- 次世代コンピューティング・AI
- ロボティクス
- 宇宙関連技術
- エネルギー・脱炭素技術
- 農業テクノロジー
- 先端製造技術
- センシング技術
- 海洋テクノロジー
- 先端医療機器
- 脳科学・神経科学応用技術
脱炭素はエネルギー関連の研究開発補助とも親和性が高い領域です。自社の技術がどの分野に属するかを整理すると、想定する導入先の業界が絞りやすくなります。
2-2. 日本のディープテック企業に見る事業化の特徴
日本のディープテック企業に共通するのは、技術の完成と同じ重さで量産と販路構築が課題になるという点です。導入先と売上の作り方は、研究成果を特定の商品に落とし込む段階から設計する必要があります。
研究開発型スタートアップの経営者が自社に当てはめる際は、次の論点を整理しておくと事業化の見通しが立てやすくなります。
- 研究成果をどの商品・サービスの形で提供するか
- 量産体制を誰とどの順序で整えるか
- 販路を量産の準備と並行して設計できているか
量産体制だけが先に進むと、作れても売り先が無い状態に陥ります。販路設計だけが先行すると、受注しても供給できない状態になります。両者を並行して進める計画を立てることが欠かせません。
日経クロステック(2026年9月18日公開)は、大学発スタートアップは2025年度に6220社で、うち4〜5割がディープテック領域だと報じています。
出典: 大学発新興が5年で倍増、支援体制は「世界有数」 ディープテックに
2-3. ディープテック系スタートアップに共通する特徴
ディープテック系スタートアップとは、研究成果を核にした技術優位性を持つ一方、事業化に長い時間と多額の資金を要する企業群を指します。共通する特徴は次の通りです。
- 創業者や中核メンバーに研究者・技術者が多い
- 知的財産(特許)による参入障壁がある
- 量産化や社会実装の工程に製造・規制対応が伴う
- 営業・マーケティング機能が後回しになりやすい
- 資金調達が研究開発補助や公的支援に依存しやすい
このうち、営業・マーケティング機能の不足は、実証後の事業化局面で深刻な課題として表面化します。大学の共同研究先との関係を、最初の導入先にどうつなげるかを早い段階で検討しておくことが有効です。
3. 実証から事業化までの進め方と壁

研究成果を社会実装するには、実証(PoC)から量産化までの各段階で異なる壁を越える必要があります。この過程を正しく理解することが事業化の近道です。
3-1. 研究成果から実証(PoC)までのステップ
研究成果を事業化するには、仮説検証・試作・実証という段階を踏むことが基本です。各段階で検証すべき内容は異なります。
- 技術シーズの事業化仮説を立てる
- 試作品を開発し基本性能を確認する
- 限定条件下での実証(PoC)を実施する
- 実証データをもとに改良点を洗い出す
- 量産化に向けた設計・製造体制を検討する
このステップを飛ばして一気に量産化へ進もうとすると、資金と時間の両面で行き詰まる可能性が高くなります。
3-2. 「死の谷」と量産化実証で起こる壁
死の谷とは、研究開発の成果が実証段階を終えても、量産化・事業化の前に資金や人材が尽きてしまう状態を指す用語です。研究開発型スタートアップが共通して直面する壁として知られています。
経済産業省の資料では、ディープテック領域の特徴として次の2点が挙げられています。
- 研究開発の成果の獲得や事業化・社会実装までに長期間を要することによる不確実性の高さ
- 多額の資金を要すること
同資料は、こうした性質から自然にはイノベーションが循環しにくく、国による支援が必要だと整理しています。
量産化実証の段階では、生産設備や検査設備の整備といった設備投資の壁も加わります。実証を終えた技術でも、量産化の過程で追加の検証が必要になる場合があります。実証後の導入先開拓では、この壁を越えるための導入先の決め方を具体的に解説しています。
3-3. SBIR・NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業の活用
SBIR採択企業が事業化を目指す場合、NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業は選択肢の一つです。前述の経済産業省資料によれば、この事業のためにNEDOには基金が造成されています。実用化研究開発から量産化実証までを一気通貫で支援する枠組みです。
支援内容はコースによって条件が異なります。補助率や事業期間は公募回ごとに変わる場合があるため、申請前に公募要領で要件を必ず確認してください。コースの区分は次の通りです。
- 躍進500
- 躍進3000・躍進GX
- 躍進カーブアウトA(個人・チーム)
- 躍進カーブアウトB(法人)
これらの支援は研究開発段階の資金を補う一方、採択後の販路開拓には別途の体制が必要になる場合があります。研究開発補助の採択企業の方へでは、補助事業終了後の売上づくりの進め方を紹介しています。
4. 実証後の導入先開拓とマーケティングの進め方

実証を終えた技術を事業化するには、最初の導入先を戦略的に決め、逆算して営業・マーケティングを設計することが必要です。技術の優秀さだけでは導入先は決まりません。
4-1. 大学発ベンチャーが営業で直面しやすい失敗
大学発ベンチャー営業で起こりやすい失敗は、技術説明を先行させ、導入先の業務課題との接続を後回しにすることです。研究者出身の経営者ほど、この傾向が出やすくなります。
- 技術の優位性ばかりを説明し導入メリットを言語化できていない
- 営業先の条件・優先順位を決めずに幅広くアプローチしている
- 問い合わせや商談化までの導線が整理されていない
- マーケティング・営業責任者が不在で代表者が全業務を兼務している
- プレスリリースやウェビナーなど複数の手段を連携させていない
これらの失敗は、技術力と事業化力が別のスキルであることを示しています。代表者が営業を兼ねている場合は、担う業務を書き出して切り分けるところから始めると効果的です。
4-2. 最初の導入先を見つけるためのチェックリスト
実証後に導入先を決める際は、条件・順序・数値目標を事前に設計することが欠かせません。次のチェックリストで現状を確認できます。
- 導入先の業種・規模・課題を具体的に定義しているか
- 導入先候補に優先順位をつけているか
- 初回接点から商談化までの目標数値を設定しているか
- 電話・メール・ウェビナー・プレス・サイトの役割分担を決めているか
- 問い合わせから次の打ち合わせへの導線が明確か
- 6カ月単位の逆算スケジュールを作成しているか
このチェックリストに「いいえ」が多い場合、導入先探しが場当たり的になっている可能性があります。関心を示した相手が次の打ち合わせに進まない場合は、問い合わせ後の連絡手順から見直します。
4-3. 研究開発型スタートアップに必要なマーケティング体制
研究開発型スタートアップのマーケティングで必要なのは、技術開発チームとは別に事業化を専任で担う体制です。次の機能をそろえることが目安になります。
- 初期設計で販売先の条件・順序・数字の目標を決める機能
- 電話・メール・ウェビナー・プレス・サイトを一体で動かす実行機能
- VCからの資金調達後に売上を作る機能
- 大学の共同研究先との関係を事業化につなげる機能
マーケティング+は、こうした機能を専任のチームが社外の営業・マーケティング部門として担うサービスです。最初の導入先から逆算して6カ月の計画を設計し、戦略から実行までを一貫して進めます。サービスについてでは、初期設計で決める項目と毎月の実行内容を紹介しています。
よくある質問
Q. Deep Techとはどういうジャンルですか?
A. Deep Techとは、自然科学の研究成果を起点とする技術ジャンルです。バイオ・素材・量子など複数の学問分野にまたがり、単一業界に収まらない点が特徴です。
Q. ディープテックの例は?
A. バイオテクノロジー・新素材・量子技術・次世代コンピューティング・宇宙関連技術などが代表例です。分野の数え方は論者で差があるため、自社技術の応用先から整理すると実務に役立ちます。
Q. ディープテック系スタートアップとは何ですか?
A. 研究成果を核にした技術優位性を持ち、事業化に長い時間と多額の資金を要する企業群を指します。知財による参入障壁と量産化工程の複雑さが共通の特徴です。
Q. 日本のディープテック企業はどのような会社ですか?
A. 大学発スタートアップが中心です。大学発スタートアップが研究成果を商品化し、量産と販路構築に取り組む例が代表的です。
Q. 死の谷とはどのような状態ですか?
A. 死の谷とは、研究開発の成果が実証を終えても量産化・事業化前に資金や人材が尽きる状態です。研究開発型スタートアップが共通して直面する課題として知られています。
Q. SBIR事業化とNEDOの支援はどう関係しますか?
A. NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業は、実用化研究開発から量産化実証までを一気通貫で支援する枠組みです。SBIR採択企業が事業化を目指す場合の選択肢の一つになります。
まとめ
本記事の要点は次の3点です。
- ディープテックとは、科学的発見に基づき社会実装で大きなインパクトを持つ技術で、開発期間・資金・不確実性の面で従来のITと異なります
- 研究成果の事業化には「死の谷」と呼ばれる壁があり、NEDOの支援事業などを活用しながら量産化実証を進めます
- 実証を終えた後は、最初の導入先の条件・順序・数値目標を事前に設計し、営業・マーケティング体制を整えることが事業化の成否を分けます
マーケティング+は、専任のチームが社外の営業・マーケティング部門として入り、最初の導入先から逆算して6カ月の計画を設計します。実証を終えたものの、導入先と売上の作り方が定まっていない経営者の課題に正面から向き合います。
実証を終えた技術の、最初の導入先と6カ月の計画は決まっていますか?






