
- 新規顧客開拓で最初の一社を決める理由
- 最初の導入先へ接点をつくる方法
- 新規顧客開拓でつまずきやすい点と対処
研究開発型の会社が新規顧客開拓で最初に決めるべきことは、「最初の導入先となる一社の条件」です。技術の説明を広く届ける前に、誰が最初に買い、誰が社内で決めるのかを定めると、営業とマーケティングの打ち手が一本につながります。
本記事では、実証の実績はあるものの売上の作り方が決まっていない経営者に向けて、最初の一社から逆算する進め方を解説します。対象顧客の絞り込み、接点づくり、商談化、6か月の計画、つまずきやすい点の順に整理します。
1. 新規顧客開拓で最初の一社を決める理由

研究開発型の会社では、最初の一社を決めない限り営業活動の優先順位が定まりません。最初の導入先は売上の起点であり、次の顧客を説得する根拠にもなります。
1-1. 技術の広さが新規顧客開拓を難しくする
研究開発型の技術は応用先が多く、どの業界にも使えるように見えます。そのため訴求先が広がり、どの相手にも決め手を示せない状態になりやすいです。
- 応用先が多く、提案の焦点がぼやける
- 業界ごとに課題の言葉が違い、資料が増える
- 問い合わせが来ても優先順位をつけられない
1-2. 最初の一社が次の顧客の判断材料になる
法人の購買では、導入済みの先行例があるかどうかが判断材料になります。最初の一社の導入は、売上と同時に次の商談で使える説明材料を生みます。
- 導入の経緯を同業他社に説明できる
- 導入後の効果を自社の言葉で語れる
- 価格や契約条件の基準が定まる
1-3. 実証の成功と購買の決定は別物
PoCとは、技術が実際の現場で機能するかを小規模に検証する取り組みのことです。実証が成功しても、相手企業の予算や決裁の仕組みに乗らなければ購買には進みません。
- 実証の担当者と予算の決裁者が異なる
- 実証の費用と本導入の予算は出どころが違う
- 導入後の運用担当が決まっていない
1-4. 明日できるアクション
これまでの実証先と問い合わせ先を一覧にし、「予算を持つ部署が分かっているか」を一社ずつ確認してください。分からない先が多ければ、最初の一社の条件づくりから始める段階です。
- 実証先・問い合わせ先の一覧化
- 決裁者と予算部署の有無の確認
- 次の打ち合わせ予定の有無の確認
2. 実証後に導入先が決まらない背景

導入先が決まらない主な原因は、技術の検証と購買の準備が別々に進んでいることです。実証の段階から購買の手順を並行して整えることが、本導入への近道になります。
2-1. 実証の目的が技術検証で止まる
実証の評価項目が性能や精度だけだと、相手企業は投資判断に必要な情報を得られません。導入後に何が変わるのかを、相手の業務の言葉で示す設計が欠かせません。
- 性能の指標だけで評価が終わる
- 業務上の効果が数値で語られない
- 導入後の運用の姿が描かれていない
2-2. 補助事業の終了後に売上計画が空白になる
SBIR制度とは、国が中小企業等の研究開発から事業化までを段階的に支援する制度です。NEDOやJSTの研究開発補助も含め、補助事業の期間中は研究に集中できますが、終了後の売上計画が空白になりやすいです。補助事業の終了後を見据えた進め方は、研究開発補助の採択企業の方へでも整理しています。
- 補助期間中は研究の成果報告が中心になる
- 終了後の顧客候補が整理されていない
- 事業化の担当者が決まっていない
2-3. 代表が研究と営業を兼ねている
研究開発型の会社では、代表が技術責任者と営業担当を兼ねることがよくあります。その結果、商談の追いかけが後回しになり、関心を持った相手との接点が途切れます。
- 商談後の連絡が数週間空く
- 提案資料が毎回作り直しになる
- 営業活動の記録が残らない
2-4. 明日できるアクション
補助事業の終了時期と、その時点で売上を見込める相手の数を書き出してください。終了時期から逆算すると、準備に使える月数が見えてきます。
- 補助事業の終了時期の確認
- 終了時点の見込み顧客の洗い出し
- 事業化の担当者の決定
3. 新規顧客開拓の対象を絞る判断基準

対象顧客は、課題の切実さ・予算・決裁の速さの3点で絞り込みます。3点がそろう相手を最初の一社の候補とし、それ以外は後の段階に回します。
3-1. 最初の一社に求める3つの条件
最初の一社には、導入に向けて自ら動く理由と手段が必要です。次の3条件で候補を評価してください。
- 課題の切実さ:放置すると業務や収益に影響が出る
- 予算:今期か来期に使える予算枠がある
- 決裁の速さ:決裁者に直接会える距離にいる
3-2. 候補の比較表
候補を並べると、技術への関心だけで選んだ相手が最初の一社に向かないことが分かります。次の表は、候補の性質ごとに最初の一社への適性を整理したものです。
| 候補の性質 | 決裁の速さ | 最初の一社への適性 |
|---|---|---|
| 大企業の研究部門 | 遅い傾向 | 実証向き |
| 大企業の事業部門 | 中程度 | 予算次第で適する |
| 中堅企業の経営層 | 速い傾向 | 適する |
| 共同研究の相手先 | 関係による | 購買部署の確認が必要 |
3-3. 共同研究先を顧客候補に変える
大学発ベンチャーの場合、研究室の共同研究先が最初の候補になることがあります。ただし、共同研究の窓口は研究部門であることが多く、購買の判断は事業部門が持ちます。
- 共同研究先の事業部門の担当者を紹介してもらう
- 研究成果を事業部門の課題に置き換えて説明する
- 共同研究の終了時期と導入判断の時期を合わせる
3-4. 明日できるアクション
候補を5社程度に絞り、3条件をそれぞれ「ある・不明・ない」で評価してください。「不明」が多い項目は、次の打ち合わせで確認する質問になります。
- 候補5社の選定
- 3条件の評価
- 確認すべき質問の一覧化
4. 最初の導入先へ接点をつくる方法

接点づくりは、既存の関係の深掘りと、絞り込んだ業界への発信を組み合わせます。対象を絞った上で接点を増やすことで、商談に進む確率が上がります。
4-1. 既存の関係から紹介を得る
実証先、共同研究先、投資家、補助事業の関係者は、最初の接点の有力な入口です。紹介を依頼するときは、会いたい相手の部署と役職を具体的に伝えます。
- 実証先の担当者に他部署の紹介を依頼する
- 投資家に業界の経営層の紹介を依頼する
- 補助事業の関係者に展示会や商談会の情報を聞く
4-2. 業界の言葉で発信する
技術の仕組みではなく、対象業界の課題を起点に情報を発信します。展示会や業界団体の勉強会では、課題と解決後の業務の姿を短く示します。
- 展示会の掲示物を課題起点で作る
- 業界誌や勉強会で事例の考え方を話す
- 自社サイトに業界別の説明ページを設ける
4-3. 問い合わせを商談につなげる
関心を示した相手には、数日以内に次の打ち合わせを提案します。問い合わせが商談に進まない場合の整え方は、問い合わせの商談化でも解説しています。
- 問い合わせへの返信期限を社内で決める
- 初回の打ち合わせで課題と予算時期を聞く
- 次の打ち合わせの日程をその場で決める
4-4. 明日できるアクション
直近の問い合わせと名刺交換の相手から、追いかけていない先を拾い出してください。その中で3条件に近い相手に、課題の確認を目的とした打ち合わせを申し込みます。
- 未対応の問い合わせの洗い出し
- 3条件に近い相手の選定
- 打ち合わせ依頼の送付
5. 商談から導入までの進め方

商談から導入までは、相手の社内で決裁が通る順番に沿って進めます。提案の相手は担当者でも、説得すべきは決裁者だと意識します。
5-1. 相手の決裁の流れを聞く
初期の打ち合わせで、導入の判断に誰が関わり、どの順で承認されるかを確認します。決裁の流れが分かると、必要な資料と時期が決まります。
- 導入の判断に関わる部署と役職
- 予算の申請時期と承認の時期
- 稟議に必要な資料の種類
5-2. 小さく始める導入の形を用意する
最初から全社導入を求めると、決裁の負担が大きくなります。対象部署や期間を限った導入の形を用意すると、相手は判断しやすくなります。
- 対象部署を限定した導入
- 期間を区切った有償の試行
- 効果の評価方法を事前に合意する
5-3. 担当者が社内で説明できる資料を渡す
担当者は、自社の上司や決裁者に導入の理由を説明する役目を負います。担当者がそのまま使える1枚の要約資料を渡すと、社内の検討が進みます。
- 課題・効果・導入の範囲の要約
- 導入までの日程と体制
- 想定される懸念と対応策
5-4. 明日できるアクション
進行中の商談ごとに、決裁者と稟議の時期が分かっているかを確認してください。分からない商談には、次回の打ち合わせで聞く質問を用意します。
- 商談ごとの決裁者の確認
- 稟議時期の確認
- 要約資料の準備
6. 新規顧客開拓の6か月計画の立て方

6か月の計画は、最初の導入先の決定から逆算して月ごとの到達点を置きます。月ごとに「何社と、どの段階まで進めるか」を決めると、進み具合を確かめられます。
6-1. 最初の2か月で対象と提案を固める
最初の2か月は、対象顧客の条件と提案の内容を固める期間です。この段階で候補の一覧と、業界の言葉で書いた説明資料を用意します。
- 最初の一社の条件の決定
- 候補一覧の作成
- 業界別の説明資料の作成
6-2. 3〜4か月目で接点と商談を増やす
3〜4か月目は、候補への接点づくりと商談に集中する期間です。紹介、展示会、問い合わせ対応を並行して進め、商談の記録を残します。
- 紹介依頼と打ち合わせの実施
- 商談ごとの決裁の流れの把握
- 商談記録の共有
6-3. 5〜6か月目で導入の判断を得る
5〜6か月目は、小さく始める導入の形で決裁を得る期間です。相手の稟議の時期に合わせて資料を渡し、判断の場を設けます。6か月の進め方の考え方は、サービスについてでも紹介しています。
- 導入の形と評価方法の合意
- 稟議用の資料の提供
- 導入の判断と次の候補への展開
6-4. 明日できるアクション
6か月後の到達点を「最初の一社の導入判断」と置き、月ごとの到達点を1行ずつ書いてください。書けない月があれば、その月の作業が未設計の部分です。
- 6か月後の到達点の設定
- 月ごとの到達点の記入
- 未設計の月の洗い出し
7. 新規顧客開拓でつまずきやすい点と対処

つまずきの多くは、対象の広げすぎと体制の不足から生まれます。対象を絞り直し、担当を決めることで、多くのつまずきは立て直せます。
7-1. 対象を広げすぎて成果が見えない
複数の業界に同時に提案すると、どの業界でも決め手が弱くなります。成果が見えないときは、最初の一社の3条件に立ち返って対象を絞り直します。
- 提案中の業界の数を確認する
- 3条件を満たす業界に絞る
- 他の業界は次の段階に回す
7-2. 営業を担う人がいない
研究開発型の会社では、マーケティング・営業責任者を採用できないまま代表が営業を兼ねる例があります。その場合は、商談の追いかけと記録を誰が担うかを先に決めます。採用が難しいときの考え方は、マーケティング・営業責任者の不在でも整理しています。
- 商談の追いかけ担当の決定
- 商談記録の置き場所の統一
- 週1回の進み具合の確認
7-3. 実証の延長が続き導入に進まない
実証が延長を重ねる場合は、相手の側に導入の判断材料が不足しています。延長の前に、本導入の判断に必要な条件を相手と文書で確認します。
- 本導入の判断条件の確認
- 判断の時期と決裁者の確認
- 条件を満たさない場合の扱いの合意
よくある質問
研究開発型の会社は、新規顧客開拓をいつ始めるべきですか?
実証の途中から始めるのが適しています。実証の終了後に始めると、導入の判断まで空白期間が生まれます。実証と並行して決裁者や予算の時期を確認しておくと、終了後すぐに導入の検討に移れます。
最初の導入先は大企業と中堅企業のどちらがよいですか?
決裁の速さを優先するなら、経営層に直接会える中堅企業が向いています。大企業を選ぶ場合は、決裁に関わる部署と承認の順番を早い段階で確認してください。自社の資金と期間に照らして選んでください。
補助事業の成果は営業に使えますか?
成果の公表範囲を確認した上で、説明材料として使えます。公表できる範囲は事業ごとに定められているため、公募要領や契約の条件をご確認ください。技術の評価結果を、相手の業務上の効果に置き換えて示すと伝わりやすくなります。
営業の担当者がいない場合、何から整えればよいですか?
商談の記録と追いかけの担当を決めることから始めます。担当が決まると、関心を持った相手との接点が途切れにくくなります。採用までの期間は、社外の力を借りる選択肢もあります。
実証先が本導入を決めてくれないときはどうすればよいですか?
本導入の判断条件を相手と文書で確認します。条件が曖昧なままだと、実証の延長が続きやすくなります。判断の時期と決裁者を明確にし、その場に必要な資料を用意してください。
まとめ
- 新規顧客開拓は、最初の導入先となる一社の条件を決めることから始まります。
- 候補は課題の切実さ・予算・決裁の速さの3点で絞り込み、相手の決裁の流れに沿って提案を進めます。
- 6か月の計画は最初の一社の導入判断から逆算し、月ごとの到達点と担当を決めて進めます。
マーケティング+は、専任のチームが社外の営業・マーケティング部門として入り、最初の導入先から逆算して6か月を設計します。
貴社の最初の導入先となる一社の条件は、すでに決まっていますか?





